鍵蛋帖

日記です.細かく読まないでください.笑

門田修平(2014)『英語上達12のポイント 科学的理論に基づく外国語習得成功の秘訣』東京:コスモピア

英語上達12のポイント

英語上達12のポイント

序章 12のポイントはどこから生まれたか

ここでは、本書の「英語上達12のポイント」を生み出したバックグラウンドを解説します。

はじめに本書の中心的な用語「第二言語」「外国語」「習得」「学習」といったことばが何を指しているか解説します。そして、第二言語習得研究がたどってきた歴史を概観します。そうすることで、第二言語習得やその研究が今日のような形で脚光を浴びるようになった背景を探ります。最後に、英語など第二言語の習得の決め手となる「メタ認知」の大切さについて考え、12のポイントが生まれた背景を理解しましょう。

まとめ

  1. 一般に、母国語の代わりに「母語」や「第一言語」、外国語の代わりに、「第二言語」と呼ぶことが多くなった。この理由として、「ひとつの国」=「ひとつの言語」は、単一言語国家のみにあてはまる図式で、実はそのような国はあまり多くないことがあげられる。
  2. 「習得」「獲得」は英語のaquisitionの、「学習」は英語のlearningの日本語訳で、両者の間には大きな中身の違いがあると考えられている。
  3. 第二言語習得研究が脚光をあびるようになった背景には、「言語学」、「英語学」、「日本語学」、「音声学」、「音韻論」などの言語系や、「認知心理学」、「認知科学」、「神経科学」など人の頭脳系についての研究分野からの知見を、隣接科学領域として積極的に取り込もうとする姿勢が明確に意識されるようになったことあがある。
  4. 第二言語習得研究の歴史をひもとくと、それが出現する以前は、外国語教授法の理論的基盤をその時代の言語理論に求めて、その成果を応用してきた。しかし、Chomsky自身が変形生成文法理論を外国語学習に応用することに懐疑的な発言をして以来、言語理論にその理論的基盤を求めるのではなく、第二言語習得研究それ自体が、みずから理論化を求めるようになった。
  5. Krashenが提案した、モニターモデル(monitor model)は、①習得-学習仮説、②自然な順序仮説、③モニター仮説、④インプット仮説、⑤情意フィルタ仮説といった5つの仮説から成っている。
  6. 第二言語の学習においては、学習法だけを学ぶのではなく、なぜそのような方法をとるかという「メタ認知」を育成することが重要である。本書が第二言語としての英語の習得・学習における、読者みなさんの「メタ認知」能力の育成に寄与することを望む。

ポイント1 大量のインプットが必須(インプット:これがなければはじまらないすべての根源)

私たちが英語などの第二言語(外国語)を覚えるには、まずはインプットが不可欠です。しかもできるだけ豊富で、適切なレベルのインプットが必須です。これに意を唱える人はいません。しかし、インプットだけで十分かどうかは意見が分かれます。インプット学習だけでは正確な文法処理能力はつかないというのです。さらに、本書では、これらふたつの理論をつなぐプラクティスが絶対に必要だと主張しています。ポイント1の大量インプットを前提としつつアウトプットやプラクティスの意味を考えます。

まとめ

  1. 外国語(第二言語)としての英語の習得に必要な基本課題は、「言語インプットの確保」および「学習システムの活性化」というふたつを解決することだと考えられる。
  2. 「言語インプットの確保」というのは、学習者が接するインプットをどれだけ大量に聞いて理解できるインプットを確保しているかという問題である。これに対し、どのような学習法をとれば、うまく英語(外国語)が無理なく入ってきて使えるようになるかというのが「学習システムの活性化」である。
  3. インプットの確保については、これまで、コンプリヘンションアプローチ、Krashenのインプット仮説、多読・多聴による方法などに代表される「インプット理論」が最重要課題と考えてきたものである。
  4. しかし、インプットだけでは、スピーキングなどの言語産出ができないばかりか、正確な文法操作能力の獲得も困難になるというのが「アウトプット理論」からの反論である。
  5. インプット理論とアウトプット理論の効果を実現するためには、その中間項として、両者を結びつけるプラクティスが極めて重要である。それによって、学習素材に関する知識を潜在的な記憶に近づけることができ、スムーズにインプットをアウトプットに転化する効果が期待できる。

ポイント2 効率よく記憶に定着させるコツをつかむ(新しい情報をどのようにして記憶するのか、そのメカニズムを知ろう)

第二言語としての英語の習得を可能にしてくれる「学習システム」を支えるのは、私たちの「情報を処理・記憶する仕組み」です。

本章では、この仕組みについてまずその概要を解説します。そして、一般に知識として頭の中に入っている長期記憶にどのようなものがあるか、長期記憶に入る前に処理の舞台となるワーキングメモリとはどのようなものか、ワーキングメモリの中で言語習得に中心的な役割を果たす音韻ループにはどのような特質があるのか、そのメモリスパンの測定はいかにして行うのかについて解説します。そして最後に、どのようにすれば、効果的にワーキングメモリから長期記憶に転送できるのか、そのポイントをお話しします。

まとめ

  1. 私たちの学習システムでは、言語などのインプット刺激を心内で処理できる形式に変換することを「符号化」、感覚記憶に取り込んだ情報を短期記憶(ワーキングメモリ)を経て、長期記憶に転送し、必要に応じて利用することをそれぞれ「貯蔵」、「検索」と呼ぶ。
  2. 長期記憶は大きく、「顕在記憶」と「潜在記憶」に分類される。前者はさらにエピソード記憶意味記憶に区分けされ、後者は、知覚表象システムと手続き記憶に分類される。
  3. ワーキングメモリから長期記憶に転送されたり、長期記憶中の情報がワーキングメモリに検索されて活用されたりするのが主な情報ルートである。しかし実際には、ワーキングメモリを経ないままで、長期記憶に送られる情報があること、ワーキングメモリを経ないで長期記憶から検索される反応出力もある。
  4. ワーキングメモリは、人の認知活動を実行していく上で必要な情報を必要な期間だけ意識的、能動的に保持しつつ処理する機構である。音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソードバッファと、これらを統括する中央実行系から構成されている。
  5. 英語など第二言語の習得に直接関わっているのが、音韻ループである。この音韻ループには、2秒という厳しい制約がある。
  6. ワーキングメモリにおける「処理」と「保持」の能力を測定するテストにリーディングスパンテストがある。
  7. 短期的、意識的なワーキングメモリから長期記憶へいかにすれば効率よく情報が転送できるかについては、
    1. 自身の体験(エピソード記憶)と関連づける、
    2. 語呂合わせや、絵でイメージする、
    3. 自身の長期記憶中の既存知識と関連づける、
    4. 音韻ループにおける発音のスピードをあげて2秒という制約内にできるだけたくさん復唱できるようにする、
    5. 記憶項目に繰り返し遭遇する状況をつくる、 などがポイントである。

ポイント3 発音できることがリスニングの前提(リスニングの学習は発音することから:シャドーイングの第1の効果)

英語リスニング能力を伸ばすためには、聞き流すだけでも、ともかく英語の音声に多く接することが重要だと考えられています。しかし、人間が、言語音声を知覚する仕組みがだんだんと明らかになるにつれ、この漠然と聞き流すだけでは、十分な効果が得られないことがはっきりとしてきました。

本章では、言語音声の知覚に関する研究成果をわかりやすく解説することで、実は発音能力がリスニング能力の前提として必要であるというお話をします。最後に、第二言語としての英語の学習法であるシャドーイングが、英語のリスニング力の向上にいかに貢献するのか、そのみちすじを明らかにしたいと思います。

まとめ

  1. ことばを聞いて理解するリスニングは、音声知覚と意味理解のふたつの段階がある。さらに、後者の意味理解には、①語彙処理、②文法処理、③意味処理、④文脈処理、⑤スキーマ処理が含まれている。
  2. 他の活動をしながら、同時にBGMがわりに英語を聞き流しているだけでは、選択的注意がはたらき、あまり効果が期待できない。
  3. 母語の音声知覚は、実は、聴覚だけに頼っているのではなく、同時に視覚情報にもとづく聞き手のこころの中での発音の影響を受ける。このように、言語音の知覚に際して、自ら発音した音声と入力音声とを比較照合しているというのが「音声知覚の運動理論」である。近年、これを支持する、fMRIを活用した脳科学データが提供されている。そして、インプット音声の知覚には、腹側系の音響ストリーム領域と、背側系の運動ストリーム領域が関係すると考えられるようになっている。
  4. 音声知覚がこの3. のような仕組みを持つのは、その背後に、他者の行為をそのまま再現するミラーニューロンによる模倣能力が関係しているという考え方がある。そして、母語および第二言語の運用能力(コミュニケーション能力)を習得する基盤に、このミラーニューロンによる他者の行為を脳内で再現・模倣し共感し合う能力があるのではないかと考えられる。
  5. 英語のリスニング、特に音声知覚能力の向上にシャドーイングの学習が大きな貢献をするのは、①学習者の長期記憶中の音声知識を日本人的発音から脱却させ、②学習者の側の発音(運動前野・運動野の活動)を促進させる効果があるからだと考えられる。

ポイント4 間違うことを恐れるな(エラーが教えてくれる自分の学習状況)

英語を学習していて、間違いを犯すと恥ずかしい、カッコ悪い、だから間違わないようにしよう……。私たちの多くはこの思いから逃れることができません。しかし、これまでの第二言語習得研究は、学習者の犯す間違い(エラー)は必ずしも回避すべきものではなく、それを観察・分析することで、学習者がどのような中間言語体系を持っているかを探る有効な方法であることを明らかにしています。

本章では、この間違いをめぐってこれまで第二言語習得研究においてどのようなアプローチがなされてきたか、また自分自身の間違いを観察することが、学習者であるみなさんにとって、どのような点がプラスになるのかを考えてみたいと思います。

まとめ

  1. オーラルアプローチの支えとなった対象言語学の枠組みを使って、学習者の母語と、学習対象言語の対象分析を行い、そこから学習者の犯す誤りを予測できると考えたのが対象分析仮説である。この仮説は、母語第二言語で共通している部分は学習が容易で間違えないのに対し、母語第二言語で相違している部分は学習が困難で間違えやすいと予測した。これで日本人学習者にとって、英語のリズム・イントネーションや、さらには母音・子音といった分節音など音声面の学習については、かなり正確に学習困難点が予測できる。
  2. 対象分析仮説の予測に反して、日本人英語学習者は、日本語とは大幅に異なる英語の基本語順に関する誤りはほとんど犯さない。誤りの多くは、ルールの「過剰一般化」による。すなわち、学習者自身が、実際の英語の文法のルールとは異なるルールを構築して、それを過剰適用したために生じるものが多くみられる。このことから学習者は、実際の英語とは異なる「中間言語」システムを持っていると言える。
  3. 学習者の中間言語システムの実態を知るには、学習者によって産出された話しことば、書きことばを大量に集積した「学習者コーパス」の分析が有効な手段である。日本人英語学習者を対象にした学習者コーパスには、JEFLLとNICT JLE Corpusというふたつのコーパスが有名である。実際に、NICT JLE Corpusを使った、談話連結詞の使用実態を分析した研究例もある。
  4. 第二言語を学ぶ人の独自の中間言語体系が変容していく動的プロセスは、「再構築」と呼ばれるようになった。例えば、個々の事例を記憶して文を産出する中間言語システムから、規則に基づいた中間言語システムへという変容や、顕在的な知識から自動処理が可能な潜在的知識への変容などがある。
  5. 母語第一言語)の能力とともに、第二言語の能力(中間言語システム)を併せ持った認知システムは、マルチコンピタンスとも称される。
  6. エラーを客観的に分析することで、自身の学習状況をモニターでき、どのような方法で今後学習を継続するか、いかなる学習戦略(ストラテジー)をとればよいかを考える手がかりになる。この意味で、エラーは、第二言語学習をサポートするファシリテーターであると言える。

ポイント5 こころの中の音声が英語習得の決め手(音韻ループはことばの学習中枢:シャドーイングの第2の効果)

私たちの頭の中の学習システムには、インプットされた音声を知覚して、意味を理解し、それをワーキングメモリの音韻ループに一時保存しつつ、長期記憶に内在化する仕組みが備わっていると考えられます。この学習システムについて、もっとも重要なポイントは、外界から取り込んだ音声を、意味とは直接関係なく、そのままいったん音韻ループに保持し、その音声を内的にリハーサルできることです。こころの中の英語でのこの音声リハーサルを、シャドーイングのトレーニングにより、鍛えることができるのでしょうか。

本章では、シャドーイングトレーニングとこの内的な音声リハーサルとの関係について焦点をあてます。その上でシャドーイングによる潜在学習効果について解説し、シャドーイングで効果をあげるためのポイントを列挙します。

まとめ

  1. 私たちの頭の中の学習システムは、①音声インプット、視覚インプットを知覚して心の中に表象し、②インプットの意味理解をし、③一時的保持を行い、さらにその保持情報を内在化するという操作を行っていると考えることができる。
  2. 学習システムの中核をなす音韻ループでは、リハーサル、特に精緻化リハーサルにより、情報を長期記憶に転送する。精緻化リハーサルは、学習者自身の持つ長期記憶中の様々な知識を検索して、それらと関連づけようとする積極的なリハーサルである。
  3. リスニングやスピーキングには障害がないのに、復唱のみが障害を受ける伝導失語は、意味を伴う情報処理とは無関係に、音声情報そのものを一時的に音韻ループに保存することができなくなる音韻性の短期記憶障害であると考えられる。このことは、意味処理とは独立した音声保持の機能が脳内に備わっていることを示唆している。
  4. シャドーイングとリピーティングの学習効果を比較すると、シャドーイングではインプット音声の処理に余裕がない分、学習者の注意は音声インプットの知覚とその復唱に継続的に向けられる。それだけ、記憶しようと意識しない潜在学習としての特徴を、モデル音声に対して持つことになる。このことを第二言語として日本語を学ぶ学習者を対象に実験し、有益なデータを提供している研究がある。
  5. 声に出す有声リハーサルと無声の内的リハーサル実行時の脳活動を、fMRIを使って調べた研究により、両リハーサル間には同様の脳内活性化状態が得られることが示唆されている。実際に、シャドーイングトレーニングによって、声に出す復唱だけでなく、こころの中の音声(内的リハーサル)が高速化することを明らかにした実験結果もある。そしてこの内的リハーサルの高速化が、学習素材(英語のフレーズ)の潜在学習を可能にする主な要因であると推測される。
  6. シャドーイングで潜在効果を上げるための7つのポイントが列挙できる。
    1. 自分のレベルに合った、興味のある音声素材を選ぶこと。
    2. できる限り、インプット音声に集中してシャドーイングできるようにすること
    3. ポーズの間に復唱するリピーティングにしないで、即座に繰り返す練習を心がけること
    4. 最初はテキストを見てもよいが、それはあくまでも本格的なシャドーイングの前段階であると考えること。
    5. シャドーイングがうまくできずに、間違えたり、とばしてしまったりしても、あまり気にせず立て直して継続すること。
    6. リズム・イントネーションなどのプロソディ(韻律)に着目してシャドーイングすること。
    7. 自身のシャドーイングの学習状況をみつめる眼(メタ認知)を養うこと

ポイント6 ことばを習得に導く脳の仕組みを理解する(「英語脳・英語耳」は神話。ことばに惑わされるな)

近年の一種の脳科学ブームの延長で、「英語脳」や「英語耳」という表現をよく耳にします。このふたつの用語は、しばしば英語学習を議論する際に出てくるものですが、はたしてどのような背景を持ち、いかなる実証データにもとづくものなのでしょうか。

本章では、まず大脳の左右半球における機能差や、大脳における言語処理機構、さらには近年のブレーンイメージング技術について、その概要をお話しします。その後、「英語脳」「英語耳」というふたつの言葉について、その背景や研究データに迫りたいと思います。

まとめ

  1. 私たちの大脳は左右ふたつの半球から成り、情報の認識・処理においてそれぞれ異なる役割を分担している。一般的には、左半球が言語刺激の認知や情報の分析的・継時的処理においてまさり、他方右半球が非言語刺激の認知、全体的・同時的情報処理に優れることなどが明らかになっている。
  2. 私たちの脳(brain)は、大きく、大脳(cerebrum)、小脳(cerebellum)、脊髄(spinal cord)などに大別される。その中で、言語を処理する機能は、大脳の左側頭葉を中心に、ブローカ野(スピーキングなどの運動性の言語中枢)、ウェルニッケ野(リスニングなど感覚性の言語中枢)などが関連領域であると考えられている。
  3. 従来、人の大脳の機能については、失語や失認・失行などの臨床報告にもとづいて研究されていたが、近年は、ブレーンイメージング技術の進歩により、健常者における大脳の言語処理プロセスの実態が明らかにされるようになった。
  4. 近年の脳科学ブームの延長上で、「英語脳」や「英語耳」ということばが、よく登場する。「英語脳」については、母語(日本語)の運用に利用する脳領域と、第二言語(英語)において活用する脳領域が異なるという主張である。しかし、日本語でも英語でも、理解がうまくできている際にはウェルニッケ野を活用することが、また産出がうまくできるためにはブローカ野が活性化することが必要であるものの、両言語間で異なる言語処理領域が存在するという証拠はないというのが現状である。
  5. 「英語耳」については、耳鼻咽喉科医師で音声医学の専門家でもあるアルフレッド・トマティス氏が提唱した「周波数帯(パスバンド)理論」に端を発していることがわかる。これは、各民族が周波数の異なる音に対して持つ最大感度幅を示すものである。しかしながら、人の発する音声は、通常は1秒間に50回から200回程度、つまり50-120 Hz程度の周波数を持つ。日本人英語学習者のシャドーイング音声が、アメリカ英語母語話者のモデル音声に比べて、かなりピッチ幅が狭いことは確かであるが、どちらも、50-200 Hzにおさまるもので、上記のパスバンドで示されたような数値とは大きく異なっている。

ポイント7 英語能力の自動化を目指そう(潜在記憶と言語の切っても切れない関係)

ここでは、顕在学習と潜在学習というふたつの学習形態に焦点をあてます。そして、みなさんが持っている意識的で顕在的な英語の語彙・文法などの知識を、どうすれば自動的に使える潜在的な言語知識に変貌させることができるかについて考察します。その上で、英語など第二言語の習得でどのような段階を経て学習すればよいかを考えるための3ステップモデルを提示します。

 まとめ

  1. 顕在学習と潜在学習というふたつの学習形態はそれぞれ人の学習(記憶)の基本的な枠組みを提供するものである。前者の顕在学習については①海馬を介した学習である、②言語化できる意識的学習である、③しばしば1回だけの即時学習が可能である、という特徴がある。これに対して、潜在学習は、①動作や技能など意識にのぼらない学習、②繰り返し実行することで、徐々に蓄積する、新皮質における反復プライミング学習により達成されるという特質を持つ。
  2. 顕在記憶の形成には海馬が関わっているのは、健忘症患者のHMさんの症例より明らかである。また、場面とともに形成されたエピソード記憶が、その後、意味記憶への移行を果たした際には、海馬から角回という活動部位の移動があることを示唆する研究が報告されている。
  3. 第二言語におけるエピソード記憶から意味記憶、さらには手続き記憶(潜在記憶)への移行を示唆したモデルに、第二言語学習の3ステップモデルがある。この(3)に移行するには、大量の反復学習による潜在学習が必須である。この潜在学習が完了して、母語並みの流暢性を獲得すると、大脳基底核や小脳の機能が重要になる。このうち、大脳基底核は、自動的に必要な文や句を取り出すという作業に関わっていると推測されている。また、小脳についても、通常は、運動機能を営む脳部位であると考えられてきたが、名詞を提示して関連する動詞を発話する際に関係することが知られている。
  4. Krashenによる「習得・学習」仮説では、この「習得」と「学習」は別物で、一切のインターフェイスを持たないとされた。これを「ノンインターフェイスの立場」と呼ぶ。これに対し、意識的、顕在的な第二言語の知識は、多くのインプットに接し、プラクティスを繰り返すことで、潜在的な知識に変化すると考える立場を「インターフェイスの立場」と呼んでいる。
  5. このインターフェイスの有無に関する議論は、第二言語習得研究に特有のものであり、他領域の学習では「インターフェイスがある」のはむしろ当然のこととして考えられている。その中で、第二言語の場合は、インターフェイスの前提となる学習は、意識的、顕在的な性質を持つものである。

ポイント8 はじめて見る未知語の発音ができるようにする(音韻認識と擬似単語の音読能力が日本人の英語下手を解消する)

私たち日本人は、英語の学習を、ほぼ例外なく書きことばを中心に行ってきました。その結果、英語はなんとか日本語に訳しながら読めても、聞けない、話せない学習者を多く生み出してきました。しかし、書きことばの理解は、決して書きことばのみで完結するわけではありません。文字言語を音声化するプロセスが、否応なしに生じ、そこではリズム、イントネーションなどのプロソディの潜在的使用なども仮定できます。しかし、日本人英語学習者は、日本語の音節構造の影響を受けて、未知語の発音が正確にできないままであるという実態も報告されています。

本章では、英語学習の最初に、英語絵本を利用して、さらにフォニックスを活用して、文字言語の理解と音声言語の理解が一体化した能力を形成することが実は最も重要なテーマであることをお話しします。

まとめ

  1. これまで日本人は、英語の学習を、ほぼ例外なく書きことばを中心にその学習を行ってきたが、話しことば(音声言語)とはかなりの相違点がある。主な話しことばの特性としては、①曖昧さ、②流暢さの欠如、③つなぎ語の使用、④あいづち語、⑤単調な音調型、文型、⑥相互作用性、⑦他者依存性などが指摘できる。さらにはそれ以外にも、プロソディ(韻律)があり、これが存在しない書きことばの処理においては、曖昧さが生じないように、慎重に語彙を選び、構文を選ぶことにある。
  2. 書きことば中心の英語学習には、長所ももちろんあるが、短所も多い。①コミュニケーション活動の相互作用性が習得できない、②プロソディ(韻律)を無視、③一定時間内に処理したり反応したりする流暢性・自動性の習得が困難、④書きことばをもとにした心内の音韻表象と、話しことばをもとにした心内の音韻表象のギャップをつくってしまう、ことなどが短所として挙げられる。
  3. リーディング(読解)の学習は、これまで音声言語とは無関係に行われ、その結果、英語はなんとか日本語に訳しながら読めても、聞けない、話せないという学習者を多く生み出してきた。しかしながら、文字言語の処理にはその音声化(音韻符号化)が、自動的に生じることを視覚提示語の意味理解に至る二重アクセスモデルは明らかにしている。この二重アクセスモデルに対応する脳内処理モデルでは、後頭葉第一次視覚野で受け取った視覚信号を、①角回(AG)を経て音韻信号に変換し、その上でウェルニッケ野(Wernicke's area)に至るというルートと、②左側頭葉後下部を経て直接ウェルニッケ領域に伝達させるというルートのふたつを仮定する神経心理学モデルが知られている。
  4. 心内における音韻表象の形成は、意味処理等の出発点になることが、「バイリンガル語彙処理モデル」によって示唆されている。このモデルにより、第一言語第二言語のそれぞれにおいて、音声入出力および視覚入出力がいかに、音韻表象、意味概念表象、文字表象などと結びついているのかについて、イメージすることができる。
  5. 書きことばの処理における音韻符号化の自動性は、単語だけの話ではなく、センテンスやテキストの意味理解でも同様に、その前段として必要であることが明らかになっている。そしてこの音韻符号化によって得られた文の音韻表象には、書きことばの処理をさらに促進させる「プロソディ(韻律)」情報を補完する働きがあるという「読解の音韻構造仮説」がある。その後、この仮説は、「潜在的プロソディ」仮説として多くの実験研究の対象となっている。
  6. 英語母語話者における音韻認識能力は、リーディング力獲得の前提条件である。しかし、日本人英語学習者による未知語の音読能力に関する調査結果は、小学生から、中高生、大学生となるにつれ、音読するまでの潜時は大幅に短くなるが、はじめて見る未知の英単語を取り込むための音読は、正確にはできないままであるという実態を明らかにしている。このような未知語の音読が正確にできること、これが音声英語習得の決め手になると考えられる。
  7. 英語入門期にふさわしい文字の学習法として、①英語の絵本の利用、②フォニックスの活用が挙げられる。こうして、文字言語の理解と音声言語の理解が一体化することが日本人英語学習者にとって最重要課題になる。

ポイント9 幼児の母語獲得から学ぼう(子どもは大人の手本:語学の天才を見習おう)

子どもは、大人と違って、どうして短期間のうちに、みるみることばを獲得してしまうのでしょう。これは誰もが抱く疑問であり驚きでしょう。その謎に迫るモデルがこれまでもいくつか提案されています。

本章では、これらの理論的モデルの解説からスタートして、母語獲得の実態について、これまでの成果にもとづいて、お話しします。その上で、第二言語の学習に参考となる示唆がないか考えます。

まとめ

  1. 母語第一言語)獲得について、これまで、①行動主義心理学のアプローチ、②問題解決装置(仮説-検証システム)によるアプローチ、③生成文法に基づく原理とパラメータのアプローチ、④用法基盤アプローチの4つのモデルが提案されている。
  2. 用法基盤アプローチを支える「社会認知システム」には、①他者に意図を伝えたい、他者の意図を理解したい、というコミュニケーションを志向する「意図の読み取り」と、②発話の中から一定のパターンを見つけ出す「パターン発見」の仕組みがあると考えられている。
  3. 第一言語における音声処理能力の発達には、①周囲からのインプットを受けながら、ターゲット言語の音声構造を確立していく段階、②単語の全体的な音節構造を把握し、大まかな子音、母音の音声特徴を捉える一語文期の段階、③音素識別が確立する一語文期以降の発達段階などがある。
  4. 第一言語における語彙力の発達については、①ラベリング、②パッケージング、③ネットワーク構築の3段階があることが知られている。
  5. これまで中心的に捉えられてきた統語処理能力の発達について、身近な音声情報、特にリズムなど韻律を使うことで開始されるのではないかという「韻律によるブートストラッピング仮説」が提案されている。
  6. 自然に意識的な努力なしに言語を獲得してしまう「臨界期」についての研究は、この時期を過ぎて第二言語の学習を始めても、十分にトレーニングを積めば、ネイティブレベルの発音を習得することが可能であると結論づけている。
  7. 第一言語獲得のプロセスから第二言語習得が得られる示唆をまとめたのが、①全体的チャンク学習、②分析的規則学習、③自動的操作段階へとすすむという3段階モデルである。この中で、かなりの程度固定化されたフォーミュラ連鎖(定型表現)を丸ごと学習する第1ステップが実は重要ではないかと考えられる。

ポイント10 英語力の土台をつくる母語能力を大切に(母語は外国語習得を決定づける要因)

私たち日本人は、ほとんど例外なく、英語が大の苦手です。この意識は、実際にデータとしてもはっきりと出ており、日本人の英語能力は、TOEFL iBT合計点で比較するとアジアでも最下位に近いランキングになっています。このような英語下手の原因は何なのでしょうか。よく指摘されるのが、英語と日本語の言語距離が大きいことです。しかしそればかりではなく、他の原因もあると考えられます。 本章では、この言語間距離の問題について解説するとともに、それでも母語第一言語)能力が、第二言語(英語)習得の土台になるのではないかという観点や、第二言語の学習や教育には母語以外にどのような資質が重要なのかといった問題について考えます。

まとめ

  1. 日本人の英語力は、TOEFL iBT合計点でアジア30か国中27位であり、特にTOEFL iBTのスピーキングの得点は世界約147か国中最下位である。この英語下手の最大の原因は、日本語の英語の言語間距離であると言われている。また、英語母語話者に取っても日本語は、韓国語と並んで、カテゴリー4と学習時間を長く要する言語であることが示唆されている。この言語間距離が大きい場合には、英語力に差がなくても、実はそれだけで言語運用の際に、より深く広範な大脳の活性化が必要になる。しかし、言語間距離において日本と同じランクの韓国が、TOEFL iBT合計点で、アジア第10位と日本を大きくリードしていることから、言語間距離以外にも、様々な要因が英語(第二言語)の学習に関係していることがわかる。
  2. 第二言語獲得が、母語第一言語)能力の影響を受けるかについては、リーディングの重要なテーマである。実証研究の結果は、日本語を母語とする学習者の場合でも、英語(第二言語)力が一定のレベル(閾値)を超えて上昇すると、母語リーディング力の第二言語リーディング力への影響が徐々に出てくることを示唆している。
  3. 外国語の習得を容易にしたり、難しくしたりする要因として、他に言語学習適性がある。これまでの適性検査ではほぼ共通して、
    1. 新たに言語音を聞いて他の言語音と区別しながら、音韻符号化して音声的に一時的に記憶できる能力
    2. 文中の単語を分析してその役割を推測する分析能力
    3. 新しい単語をそのまま丸覚えする記憶能力の3つが言語学習に影響する因子だと考えられている。
  4. 学習者とは別に、外国語教師としての適正、すなわち優れた外国語教師に必要な資質として、留学などにより異文化体験を多く蓄え、その上で教授対象言語やことばの学習についての「メタ認知」が形成されていることが重要であると考えられる。

ポイント11 多読で留学並みの潜在学習を実現(留学すれば英語は習得できるのか)

留学したらすぐ英語ができるようになる。これは多くの英語学習者が考えることで、そのために留学を夢見る人も多いと思います。留学には具体的にどのような効果があるのでしょうか。長期の留学の効果を査定するのは困難ですが、短期の留学効果を、日本人英語学習者を対象にした報告からは、語彙などの新たな知識が増えるというよりも、既存の知識を自動的に使えるようにする効果があることがわかってきました。しかし、留学だけではなく、大量インプットの確保を目指す多読も、留学と同様の効果が期待できます。本章では、この多読の学習の留意点をお話しするとともに、どのような学習素材(インプット)を活用することが、効果的に流暢な潜在的な英語(第二言語)の運用能力をつける上で重要か、考察したいと思います。

まとめ

  1. 一般には、「第二言語習得」を第一言語の後に接する言語学習という意味で使うが、中には「第二言語習得」を生活のため日常的に対象言語を使う状況で学習するという狭義の用法に限定し、日本国内など、普段学習が行われていない状況で学習する場合を、「外国語学習」として区別する場合もある。
  2. 狭義の第二言語習得状況で効果をあげようとするのが、いわゆる「留学」である。しかし、海外留学する日本人学生数は2004年をピークに実は近年、減少傾向にある。
  3. 日本人大学生などを対象にした留学効果を、特にスピーキング能力との関連で、詳細に報告した研究では、①海外英語研修の前と比べて、事後では、発話への反応潜時が有意に速くなる、②発話総語数は増加するが、異なり語数では、有意な伸びは見られないことがわかっている。語彙などの新たな知識(=顕在知識)を増加させることよりも、既存の語彙知識などの潜在知識化(=手続き知識化)を進展させる効果があることがわかる。
  4. 大量インプットの確保を目指す多読とともに精読を併用しないことが重要であるという報告がある。精読の導入が多読の量を確実に減少させ、多読の鑑賞要因となるというのである。そもそも精読をリーディングと捉えること自体が、問題であると言える。
  5. 言語インプトのレベルについては、①学習者の知らない単語・語句、文法・構文をいくつも含んだ素材、②学習者の知らない単語・語句、文法・構文がほんの少しだけ含まれた「i + 1」の素材、③学習者の知らない語・語句、文法・構文がなく、楽々と意味理解ができる「i - 5」「i - 10」といったレベルの素材の3段階が仮定できる。学習者にとって、適切な処理水準にある素材やタスクを提供できることが重要なポイントである。
  6. もうひとつ重要な原則として、教室外における実際のコミュニケーションにおいて、必要な知識(学習事項)の検索を行うときに、その場の状況と類似した状況を再現する形で、学習セッションにおいて学んでいるかという「転移適切処理」がある。人は、実際に「やったこと、処理したこと」を学習るすことを念頭に置く必要がある。

ポイント12 英語力の基礎になる語彙力・文法力をつける(コミュニケーションの基礎となる語彙力・文法力とは)

日本の英語教育は、コミュニケーション能力の育成を最重要目標としています。一方で、このコミュニケーション重視の英語教育の結果、学習者の英語学力の低下を招いたという指摘も多くあります。語彙や文法を中心に英語の基礎力を、従来からの「訳読」法をもとにして養うことが重要だという意見も聞かれます。しかしそれでは、一定量の文法や語彙の知識は持っているが使えないという状況に逆戻りするだけではないかと考えられます。本章では、このような状況を受けて、英語を「知っている」状態から、「使える」状態になるのに必要な語彙・文法の基礎力とは何なのかを考察します。そして、言葉をルール(文法)に支配されたものとみなすだけでなく、手続き化された潜在記憶として捉え、その程度を「心理言語学能力」という概念によって表す必要性についてお話しします。

まとめ

  1. 日本の英語教育は、コミュニケーション能力の育成を最重要目標としている。しかし、このようなコミュニケーション重視の英語教育の結果、学習者の英語学力の低下を招いたという指摘も多い。したがって、語彙や文法を中心に英語の基礎力を、「訳読」法ををもとにして、つけることが肝心だという意見が出てきている。しかしそれでは、一定量の文法や語彙の知識は持っているが使えないという状況に、そのまま逆戻りするだけである。よって、「知っている」状態から、「使える」状態になるための語彙・文法の基礎力とは何なのかを追求する必要がある。
  2. 語彙力には、①語彙知識の広さと深さから成る単語検索の正確性と、②単語検索の流暢性の両面がある。つまり、ある単語を聞いたり見たりした際に、あるいは、ある単語を発話したり、書いたりする際に、第二言語学習者の脳内のメンタルレキシコンから、必要な語彙情報を、正確に取り出せるか、またどれだけ素早く取り出せるかという問題である。②に関連する英語の語彙処理テストとして開発されたのが、CELP-Sem Testと、CELP-Lex Testである。
  3. 文産出を支える仕組みには、①単語を素材に、文生成のための統語規則を適用する、②統語的プライミングによる、③フォーミュラ連鎖をもとに実施する、の3つが想定できる。これらのうち、②③は認知負荷の高い①による言語産出と比べると、認知負荷を軽減できる仕組みであり、英語(第二言語)を一種の「記憶」として捉えるという前提を持つものである。フォーミュラ連鎖を活用することは、従来の学校文法規則に代わるものとしてその活用を考える必要がある。
  4. 「訳読」による英語学習を支える理論的枠組みが、「マルチコンピタンス」である。訳読にも長所・短所がある。学習対象の英語から注意が離れ、ともすれば母国語訳ばかりに注意が向くことが短所である。翻訳タスクが学習の中心になってしまうと、さまざまな弊害が出てくる。
  5. 第二言語における「心理言語学的能力」は「認知的流暢性(cognitive fluency)」を基盤にした語彙・文法などの顕在的知識が、どの程度潜在記憶化(手続き化:proceduralization)しているか、その程度を表す概念である。

英語上達12のポイント

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